VOICES 07

スピーカの キーパーツ。 それは見えない接着剤

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BACKGROUND

金属や樹脂など、さまざまな素材のパーツを組み合わせて作られるスピーカ。
そうした多種多様なパーツを結び付けるのが接着剤です。
接着剤は完成した製品からは目に見えず、
普段は注目されにくい「縁の下の力持ち」のような存在ですが、
スピーカづくりには欠かせません。
一つの製品が成立するまでには、多くの壁と人々の努力がありました。
今回はフォスター電機の「接着剤開発研究」に迫ります。

  • TAKESHI HAMA

    浜 健

    技術本部 開発部
    部長主査

    接着剤研究のノウハウを組み合わせながら、あらゆる「接合方法」を探る

  • AYAKO SAITO

    齋藤 亜矢子

    技術本部 開発部
    材料開発課 主任

    接着剤の性能と、環境配慮の両立という課題に挑み続ける

  • TAKUYA FURUKAWA

    古川 卓弥

    技術本部 開発部
    材料開発課 主任

    さまざまな使用環境を想定し、研究と実験を進める

  • ※インタビュー社員の所属、役職は撮影当時のものです

1つのスピーカには
4~6種類の接着剤が
使われている

古川

スピーカにとって接着剤は「なくてはならない存在」です。スピーカには金属、ゴム、樹脂など、さまざまな素材のパーツが使われていますが、接着剤自体にも種類があります。普段の生活でも「木工用」や「布用」と書かれた接着剤を見たことがあると思います。スピーカづくりでも、素材や接合部分によって使用する接着剤の種類が異なります。特に車載用のスピーカは、強度はもちろん、耐熱・耐寒性能は必須。例えば、寒冷地を想定した場合、マイナス40度の環境でも長期間接着し続ける必要があります。強度としても、スピーカ自体が発する熱や振動に耐えられるものが理想です。そうした理由から、フォスターのスピーカには1つにつき、4~6種類の接着剤を使い分けています。

古川

このように、とても大切な存在である接着剤ですが、完成した製品から接着剤そのものや、私たちの努力は見えません。それでも、スピーカを組み立てて製品として成立させるには、接着剤は欠かせません。高品質なサウンドを生むためには、接着剤も重要なキーパーツです。

常に課題と向き合い続ける
社員たち。
目指すのは接着性能と
環境配慮の両立

齋藤

接着剤の研究開発では、接着性能と環境への配慮、その両立が重要です。近年、世界各国では環境規制が進んでいるので、私たちフォスターも二酸化炭素削減を目指して、使用電力の少ない製造方法を検討中です。具体的には「溶剤系接着剤を反応系接着剤に切り替えられないか」など、さまざまな視点からアプローチしています。

齋藤

溶剤系の接着剤を反応系に変えるメリットとしては、スピーカの製造には「塗った接着剤を固める」という工程がありますが、この作業は温風を使用するため、多くの電力が必要です。反応系の接着剤の方が短時間で接着できるので、その分電力が抑えられます。しかし、全てを反応系の接着剤に変更するとコストが高くなり、ビジネスとして成り立ちません。新たに速硬化性のある接着剤を作ったとしても「固まりやすいけど、すぐに剝がれてしまう」なんてことになれば、意味がありません。接着性能はスピーカ本体の性能にも影響するので、環境に配慮しながら性能も維持するというのは、研究開発を任されている私たちにとって、とても難しい課題です。実際の現場では、数カ月単位でプロジェクトが進みますが、一つの課題を解決しても、次々に新しい課題が生まれることもあり、常に壁を越える努力が求められます。

未来社会へ向けた挑戦。
追い求めるのは
「次の時代に最適な接着方法」

スピーカの出す音は、本体の磁気回路からの駆動力が、ボイスコイルを通じて振動板を振動させることで発生し、空気を伝わって私たちの耳に届きます。つまり、振動を発生させる部品の接合部はスピーカの最重要部。ここに少しでもズレや歪みがあれば、音質も変化してしまうので、全体に与える影響はとても大きいです。こうした部分には「音響特性」と「信頼性」を兼ね備えた特殊な接着剤を使っています。スピーカはCD等の記録媒体からの原音を忠実に再現する必要がありますが、顧客から希望される音響特性などもあります。その微調整をするために接着剤の量や柔らかさを調整することで音響特性のチューニングが行われています。なので、単純に「くっつけばいい」わけではありません。一方、信頼性は古川が冒頭に紹介したように、耐久性と耐寒・耐熱に優れ、どんな状況でも性能を発揮するという製品の信頼です。温度や張力を変えてテストを地道に繰り返し、一歩一歩理想的な接着剤に近づけています。

フォスターに接着剤を生産する工場があるわけではありません。私たちの研究をベースに、接着剤メーカと連携して開発しています。それに、接着剤を生み出すといっても「これまで社会になかった、まったく新しい接着剤を開発する」ということではなく、現在の目的や性能に対して成分を最適化するなど、時代に合わせた改良を進めています。これからも、フォスターの研究開発で積み重ねたノウハウを組み合わせて、よりよい接着剤を目指します。そして、従来の研究と同時に、接着剤に限らずあらゆる「接合方法」を探ることも私たちの役目だと思っています。